PMに恋したら

「すみません……」

恥ずかしくて逃げ出したい。よりにもよってシバケンに職質されるなんて。

「彼氏さんとはただのケンカなんですね? 極端な話、暴力をふるわれて逃げてきたわけではないですよね?」

「え……はい……」

強引に追い出されたけれど、暴力といっていいのかまでは判断できない。

「彼氏さんの家に戻れますか?」

「どうでしょう……入れてくれるかどうか。どうしてですか?」

「このまま裸足で帰るなんて怪我してしまいそうですから」

そう言われ、もしシバケンについてきてもらって太一の部屋からカバンとスマートフォンを取れたとしたら助かるなという考えが頭をよぎった。けれど警察官を連れて太一の家に戻ったらきっとものすごく怒る。只でさえ泥沼なのに火に油を注ぐだろう。

「大丈夫です。今日はこのまま帰ります。明日取りに行きますので……」

「そうですか。何かあったら警察に言ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

私が精いっぱいの笑顔を向けるとシバケンも笑ってくれた。あの頃と変わらない笑顔でいてくれる。笑うと目尻が垂れて柴犬のようだ。少しだけ記憶よりも表情が凛々しくなっている。

「あの、今からちょっと交番まで来ていただけますか?」

「え?」

あまりにも怪しいから職質だけじゃ解放してもらえないのだろうか。

「裸足じゃいくらなんでも危ないですよ。履くものをお貸しできるかもしれません」

「え、いいんですか?」

「いや、あるかはわからないんですが……ここを真っ直ぐなんで。もう見えてますよ」

シバケンが指した先にはレストランがある。その奥には交番らしき建物があった。

「ついてきてください」

自転車を押すシバケンの後ろについて歩いた。視線の先の背中はホームで守ってくれた姿よりも大人びているし、あのとき違和感があった制服姿も今は似合っている。7年たった今、シバケンは30歳のはずだ。警察官としてはベテランになったのかもしれない。

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