PMに恋したら
「ちょっと待っててくださいね」
交番に着くとシバケンは自転車を停めて交番の中に入っていった。私は扉の前で待ち、しばらくしてシバケンが戻ってきた。
「すみません、履くものっていってもこれしかなくて……」
シバケンは申し訳なさそうな顔をして私の前に1足の靴下を差し出した。
「この交番には女性警官がいないから靴もなくて、男の靴じゃサイズが合わないですから代わりに……」
私の足よりは遥かに大きいグレーの靴下を受け取った。
「差し上げますので」
「え!?」
「予備の靴下なんで。あ、もちろん綺麗に洗ってありますよ」
「いいんですか?」
「はい。すみませんこれしかなくて」
シバケンは目尻も眉も下がっている。私は申し訳なさと恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。
「家に送っていくとかそういうことはできないので、すみませんが……」
「いえ、本当に十分です」
シバケンの靴下を履けば少なくとも足が痛いことはないだろう。駅まで歩ければあとはタクシーに乗ればいいのだ。私はその場で片足で飛び跳ねながらバランスを取って靴下を履いた。靴下も男性用だから踵に余裕があって弛んでいる。
「あの、お名前を教えてください……」
私が恐る恐るそう言うとシバケンは「柴田と申します」と答えた。
ああやっぱり……この人と再会できるなんて夢のようだ……。
「ありがとうございました」
震える声でお礼を言って最後にシバケンの顔を見たけれど、彼は私と過去に会ったことがあるのだとは気づかないまま「お気をつけて」と言って頭を下げた。