PMに恋したら
太一は慌ててリビングから私のカバンを取ってきた。中にスマートフォンと財布がちゃんと入っていることを確認した。玄関に置きっぱなしの昨日履いていたパンプスを持ってきたビニール袋に入れた。始終無言の私の顔色を窺うように太一も無言で私を見ていた。
「じゃあ行くから」
「……うん」
出勤前に太一の家に寄っただけでも時間のロスだ。
「実弥」
道路に出ようとする私に太一は声をかけてきた。
「また連絡するからさ」
それにすら返事をしないで歩き出した。昨夜からまだ頭を整理できていない。背後から「ほんとにごめん!」と声が聞こえたけれど振り返らなかった。
駅までの道を歩き、シバケンのいる交番の角まで来た。この後会社に向かっても定時まで時間はギリギリだ。それでも靴下を返したかった。
「すみませーん……」
交番の前まで来てガラスのドアから中に声をかけた。奥からシバケンよりは少し若い警察官の男性が出てきた。
「はい」
「あの……柴田さんはいらっしゃいますか?」
「柴田ですか? 今はちょっと出てます」
「え……」
シバケンがいない。それは予想外だった。
「何かご用でしたか?」
「あの……ではまた来ますので」
早足で逃げるように交番から離れた。そんなことをしたから不審に思われたかもしれない。シバケンが交番にいない場合を想定していなかった。あの人に靴下を預ければよかったじゃないかと駅に着いてから気がついた。
また会いに行こう……そのときに靴下を直接返そう。