PMに恋したら

「警察……もちろん古明橋を見回りしてくれるよね?」

誰かが呟いた言葉にシバケンの顔が浮かんだ。彼はパトカーに乗っているのだ。こんな事件の後だからこそ、パトカーを街で走らせるだけでかなりの防犯効果になるはず。
今頃シバケンは忙しくしていることだろう。
どうか早く捕まえて。そしてシバケンもケガなんてしませんように。





社内メールで『複数人で退社すること、残業を極力控えて大通りを歩くこと』と上層部から通達があったのは定時の1時間前だった。古明橋周辺の企業や店舗、住宅に警戒してほしいと警察官が直に伝え歩いているようだ。
同時に通り魔の男が写った防犯カメラの写真がビラとして公開され、走って逃走する映像が報道番組にも流れた。
身長170センチメートル前後で中肉中背。20代後半から40代前半ということ以外わからない大雑把な目撃情報があっても、写真や映像に映る男の顔は不鮮明だった。

「すれ違う男の人はみんな怪しく思える。本当の通り魔が目の前に来られても咄嗟に動けないわ」

丹羽さんの言葉に同調する。
女性だけで歩くのは不安だからと課長にもお願いして、三人で駅まで歩きながらも視線を四方八方に泳がせる。会社から駅までの大通りを歩く間にパトカーを二台見た。もしかしたらシバケンが乗っていたかもしれないけれど、そうとわかるような合図などは何もなかった。真面目な彼のことだ、仕事中なのにわざわざ私に声をかけることはないかもしれない。

それから数日間、報道番組などでは古明橋の防犯カメラで逃げる通り魔の男の映像が公開され続けた。目撃者の話を元にした似顔絵が作成されても犯人が捕まることはない。駅の改札前には警察官が毎日配置され、駅周辺以外にもパトカーが多く走っている。
毎朝丹羽さんと駅で待ち合わせ、同じ会社の旦那さんの車で一緒に会社まで乗せてもらうことになった。

< 86 / 143 >

この作品をシェア

pagetop