PMに恋したら
「はは……ありがとう」
シバケンは笑った。少しだけ照れているようにも感じた。
「じゃ、じゃあ失礼します……」
「気をつけて帰ってね」
早足になる私の背中にシバケンの言葉が向けられる。そうして最後まで笑顔で見送ってくれた。その笑顔が私の頭の中をますます侵食する。
大人なのに女子高生をまともに相手してくれる優しいシバケンに憧れた。彼の影響で警察に密着したテレビ番組や事件の報道も積極的に見るようになった。シバケンに出会ってシバケン本人にはもちろん、警察組織自体にも憧れるようになった。
◇◇◇◇◇
3月になると交番にシバケンの姿がなくなってしまった。授業もほとんどなく学校に行く機会もなくなったから会う確率が減ってしまったせいだと思った。でもそうではなかった。他の警察官に聞くとシバケンは別の交番に異動になってしまったそうだ。
高校生の私には社会の仕組みや警察組織のことなどまだ分からない。シバケンの異動がいいことなのかそうじゃないのかは分からないけれど、私にとってシバケンと会えなくなることは大きなダメージだった。
3年生になっても他に顔見知りの警察官がいるうちは交番の前を通るたびに挨拶はしていた。その内徐々に交番を意識することも少なくなって、友人との間でシバケンの話題も出なくなると卒業を迎えた。
けれど私の中でシバケンの存在はいつまでも大きくて、憧れを持ったまま霞むことはなかった。