棘を包む優しい君に
 朱莉は縛られていたが、無事のようだった。
 狐を睨みつけると嫌な笑みを浮かべた。

「ちょうどいいところに来たね。
 今、ハリネズミくんの秘密を話すところだったんだ。」

「な、馬鹿やめろ!
 それは俺から………。」

 ハハハッと乾いた笑いを発した狐は話すのをやめない。

「人を食べないと人には化けれないんだよ。
 つまり君は食料兼、人として住むための駒ってことさ。」

 駒……。
 何を言ってるの。この人。

「おかしいです。
 食べたら番いにはなれないですよ。
 毎日、キス………。」

「へぇ。それは知ってるのに一番大切なことを知らないんだね。」

「馬鹿!やめろ!!」

 叫ぶ健吾さんが狐の仲間らしい人達に捕まえられて、声も聞こえなくなってしまった。

「番いになってから食べればいい。
 生娘と交わればキスなんかしなくても、一生、人でいられるからね。」

 生娘と交わるって分かるかい?ともっと生々しい表現で耳打ちされて、耳をバッと狐から離した。
 それでも耳に聞こえた気持ち悪い声は消えない。

「ね。簡単でしょ?
 それで俺はそういう子達を襲って人と生きようとしてる人外の夢を壊してるってわけ。」

 フッ…アハハハハッ。

 気持ち悪い笑い声を上げて狐が離れた距離を詰めてくる。

「君が襲われてるところをハリネズミくんに見せつけるのも一興だよね。」

 狐の腕に変わった爪で首元をなぞられてゾッとする。

「あなたみたいな変態さんに負けたりしません。」

「へぇ。それは楽しみだなぁ。
 途中で喜んじゃったらどうしようね。」

 唾を吐きかけると頬を叩かれて押し倒された。
 服を破られて、前に健吾さんにされたことと同じなのに恐怖と気持ち悪さは非じゃなかった。

 ここで自分が何かされたら健吾さんが私の前から消えてしまうかもしれない。
 そんなの嫌だ。




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