棘を包む優しい君に
 健吾はベッドに腰掛けている朱莉の手に自分の手を重ねると話し始めた。

「狐が言っていたことが一番言わなきゃいけないことだ。」

「だってハリネズミは人を食べれないですよね?」

 ハハッと力なく笑いをこぼして、深く息を吐いた。

「怖いよな。俺のこと。
 俺は食べてはないんだ。
 でもオヤジは……。」

 言うのが辛くて、続けられなかった。
 どう思うだろうか。
 それでも言わなくてはならないんだ。

「オヤジは……図らずも食べたんだ。
 何か知らずにかけらをね。
 それを信じてくれとは言わない。
 化け物には変わらないんだから。」

 長い沈黙。
 その後に朱莉から質問をされた。

「健吾さんは食べてないって、どうやって人外になったんですか?」

「俺?
 俺は……人外と人とのハーフだから。
 だからって化け物には変わりないし、何より俺は人でも人外でもない半端者なんだ。
 オヤジの禍々しいオーラに敵わないとよく思うよ。
 ………情けないよな。」

 何も言わない朱莉に健吾が続けた。

「どうせなら人間の部分なんていらないって思ってた。」

 それなのに人でもいいと思える時間を、幸せな時間を過ごせた。
 それを朱莉に伝えることはないのが残念だけれど。

 さぁ。もう時間だ。
 記憶を消そう。

 もう一度朱莉と向き合うと……泣いている?

「どうした?
 ……悪かったな。
 俺と関わったせいで嫌な思いをさせて。
 もう大丈夫になるから。」

 涙を拭う朱莉が首を横に振る。

「大丈夫になんてならないです。
 だって私は人外の方を一生、人でいさせられるから。
 だから今のままでいる以上、ずっと狐みたいな方々に狙われるんでしょ?」

 あぁ。そんなことも聞いてしまったのか。

 出来れば何もかもを忘れて朱莉に似合う優しい男と穏やかに過ごして欲しいと思っていた。
 朱莉の隣にいるのが俺じゃなくてもいいと……。

「だから狙われないように、そうじゃなくしてください。」

「何、馬鹿なことを……。
 大事にした方がいい。
 何もかも忘れて……好きな奴に言えよ。」

「だから、私が好きなのは!」

 そこまで聞いて朱莉の手に針を刺した。
 自分の体の針。記憶を消す針を。

「朱莉。ごめんな。俺も好きだったよ。」

 眠った朱莉にそっとキスをした。





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