契約の彼女と彼の事情
契約の彼女と彼の事情

1話

月に1度のお楽しみ、

高層ビルの最上階にあるバーは、景色もよく、
穏やかなジャズが流れる店内は、別世界に連れて行ってくれる。

もう、何度も通い、顔なじみとなったスタッフに、
席に案内される。

カウンター席だが、1人なので、なんの問題もない。

「元気を出して下さい」

席につこうとすると、1人のバーテンが、隣の席の人に
語りかけている。

ありがとう、と答えるも、その男性は明らかに元気がなかった。

少し気になるものの、メニューを見ていると、
その男性が項垂れ、眉間に深い皺を作っていた。

年は30代前半だろうか、

ピシリとスーツを着こなした感じは貫禄があり、
靴を見ても、高級品に見える。

派手な感じはしないが、渋くてかっこいいと言った所か。

その男性がお酒を煽って、ごほごほと咳こんだ。

「大丈夫ですか?」

あわてて、メニューを置き、男性の背中をさする。

しばらく、苦しそうにしていて、目頭には涙が溜まっている。

「大丈夫、すまない」

こちらを向いた顔は整っており、ドキンと心が跳ねた。
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