オフセットスマイル
第四章 姉妹
僕は店を後にした。
店のガラスの向こう側から、珠子が僕の様子を伺っているような気がする。
ガラスが光で白く反射したところで、珠子に予め尋ねておいた最寄の駅に向かって、僕は走り出した。
店に入るときには気付かなかったが、通り向かいのビルにポスターが貼り付けられてあった。
消費者金融のポスターだった。灰色の事務員の制服を着た若い娘が、にこやかに通り行く人々に、借金を勧めている。
黒いショートヘアの彼女は、どこか健気で、借金というものの陰鬱さを隠し、お手軽感をかもし出している。
10日間は無利子だから「急いで申し込んでね」と言う訳だが、表面上は「借り過ぎに注意してね」と、借り手に寄り掛り、指先で消費者の体をなぞっているのだ。
僕はまだ、世の中のことをあまり知らない。
だから今はまだ、当事者になるのではなく、何が起こっているのか、頭の中で観察している方が気が楽なのだ。
彼女には店を出て、すぐに囁かれた。
「走って!」
驚きもしたが、しかし、自分でも上手く説明はできない。
とにかく体が反応し、僕は走った。
珠子に出会うという思い掛けない幸運に舞い上がったのか、或いは嬉しかったのか、本当のところは分からない。
重要なのは、感性の赴くままに行動すること。考えてはいけなかったのだ。
店のガラスの向こう側から、珠子が僕の様子を伺っているような気がする。
ガラスが光で白く反射したところで、珠子に予め尋ねておいた最寄の駅に向かって、僕は走り出した。
店に入るときには気付かなかったが、通り向かいのビルにポスターが貼り付けられてあった。
消費者金融のポスターだった。灰色の事務員の制服を着た若い娘が、にこやかに通り行く人々に、借金を勧めている。
黒いショートヘアの彼女は、どこか健気で、借金というものの陰鬱さを隠し、お手軽感をかもし出している。
10日間は無利子だから「急いで申し込んでね」と言う訳だが、表面上は「借り過ぎに注意してね」と、借り手に寄り掛り、指先で消費者の体をなぞっているのだ。
僕はまだ、世の中のことをあまり知らない。
だから今はまだ、当事者になるのではなく、何が起こっているのか、頭の中で観察している方が気が楽なのだ。
彼女には店を出て、すぐに囁かれた。
「走って!」
驚きもしたが、しかし、自分でも上手く説明はできない。
とにかく体が反応し、僕は走った。
珠子に出会うという思い掛けない幸運に舞い上がったのか、或いは嬉しかったのか、本当のところは分からない。
重要なのは、感性の赴くままに行動すること。考えてはいけなかったのだ。