オフセットスマイル
「エッ? ポスター!?」


「……」


 印刷されたモデルは、コーヒー缶を片手に、微動すらしていない。

 しかし、相変わらず微笑んでいる。


 どうしてポスターは、みんな笑顔なんだ?

 こんな時にも、なんで笑顔を振り撒いていられるんだ?

 疲れないのか?

 いつも笑っていてさ。

 無理して笑ってるんだろ?

 我慢して、我慢して、そんな風に突っ張ってるんだろ?

 ねぇ、白状してみてよ。

 僕はね、本当の気持ちが聞きたいんだ。キミ達の真実が知りたいんだ。


「……」


 答えはない。可笑しくなってきた。


「ハハハ」

 バカバカしい。



「全部ね、知ってるんだから……」

 いきなりその声を聞いて、僕は口の中に含んでいた珈琲を吹き出し、引っくり返りそうになった。



 本当に僕の頭でも、おかしくなってしまったのだろうか。

 目をつむって、心の整理をする。

 冷静に、冷静に。



 ポスターの彼女が、話し掛けるはずが無い。



 筈がない。

 そんなこと、ある筈がない。

 あってたまるか。


「……ない」


「なに、ぶつぶつ、言ってんのよ?」


 僕は、はっきりと耳で聞き取れる声を脳の中に取り込み、「今考えてるから、ウルサイな」と、とっさに返事をしてしまった。


 気付くのに数秒、そして混乱から目を開けるのに、また数秒掛った。


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