オフセットスマイル
「初めまして、じゃ、ないでしょう?」


 ──そこには見覚えのある女性がいた。


「お、お前は……、珠子!」

 目をつむっている間に、背後から近付いていたのだろう。珠子は回り込み、僕の影を踏んでいる。胸で呼吸をしているのが分かるほど、息でも止めていたのだろう。

 彼女が身に着けていたのは、例によって、あのメイドのような制服だ。
 注意しようと思いながらも、口から出た言葉はこうだった。


「珠子……、ここで何やってんの?」


「それは、こっちが聞きたいぐらいよ!」


 両手を腰に当てて、ツンと胸を張り、僕の首のつけ根あたりを先端で差している。

 ぴしゃりと返されて、僕は文句を言う勢いを失った。


「追い掛けてきたのか?」


「そうよ。どっかへ行っちゃいそうな顔をしてたじゃない?」


 珠子の言葉を聞いて、僕は黙って空き缶を捨てた。少し色焼けした赤いプラスチック製のゴミ箱は二つの穴が空いていて、缶とペットボトルの分別を促している。僕が手の力を抜いた途端、まだ温もりのある缶が、ストンと中に落ちた。


「心配してくれたの?」


「まぁ、……そうね」


「お店は?」


「放置よ」


「放置?」


「みんな、カミイ君のせい」

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