オフセットスマイル
──それは、ある夜の出来事だった。
「はい、ホットドッグ。愛情サンドよ」
「あ、ありがとう」
いきなり珠子から突き出されたホットドッグを、僕はすぐさま頬張った。口の中で、キャベツの食感とカレー味が広がる。
「何で愛情サンドっていうかわかる?」
珠子も頬張っている。
「さあ」
「私のお父さんがね、昔、お母さんに作ってあげたんだって」
「そうなんだ」
愛情と言うだけあって、美味かった。もうひとつ欲しいぐらいだ。
「それにしても、ここからじゃ、よく見えないわね」
膝を抱えながら食べる僕の横で、珠子が言った。珠子が立ち上がった拍子で、絡まった草が力なくブチブチと音を立てて切れた。
「この丘がよく見えるってウワサだったのに、騙されたのかしら」
千切れた草のいくつかの破片が、埃のように漂う。
クラスメートあたりからこの場所を吹き込まれたのだろう。珠子は不満たらたらの様子だった。
僕は目を反らし、遠くに見える光のかたまりに目を凝らしている。
「もう、これじゃ見えないじゃない。ごめんね、私の方から誘っといて」
「ううん、そんなことないよ。何とか見えるしさ」
僕は炎の揺らめきを想像する。火の粉が舞い、焦がしている。
「私は上井君と、ちゃんとコレを見たかったの。だから……、残念なの」
珠子は僕の横に座る。近過ぎたので、少し場所を譲る。
「いつもと様子が違うよ。珠子、なんかあったの?」
珠子はご近所さんで、幼馴染みだ。だから些細な変化も分かる。
「ううん、何でもないの」
なぜだか、僕は言いようのない距離を感じた。
横顔すら見せたくないのか、流れるような彼女のうなじが、僕の瞳に映る。
会話はそれっきり無くなり、結局、何も話してはくれなかった。
風を感じる丘の夜は、たった一点の光を除き、静まりかえっている。
その僅かな光でさえ、僕等を照らすことはなかった。
「はい、ホットドッグ。愛情サンドよ」
「あ、ありがとう」
いきなり珠子から突き出されたホットドッグを、僕はすぐさま頬張った。口の中で、キャベツの食感とカレー味が広がる。
「何で愛情サンドっていうかわかる?」
珠子も頬張っている。
「さあ」
「私のお父さんがね、昔、お母さんに作ってあげたんだって」
「そうなんだ」
愛情と言うだけあって、美味かった。もうひとつ欲しいぐらいだ。
「それにしても、ここからじゃ、よく見えないわね」
膝を抱えながら食べる僕の横で、珠子が言った。珠子が立ち上がった拍子で、絡まった草が力なくブチブチと音を立てて切れた。
「この丘がよく見えるってウワサだったのに、騙されたのかしら」
千切れた草のいくつかの破片が、埃のように漂う。
クラスメートあたりからこの場所を吹き込まれたのだろう。珠子は不満たらたらの様子だった。
僕は目を反らし、遠くに見える光のかたまりに目を凝らしている。
「もう、これじゃ見えないじゃない。ごめんね、私の方から誘っといて」
「ううん、そんなことないよ。何とか見えるしさ」
僕は炎の揺らめきを想像する。火の粉が舞い、焦がしている。
「私は上井君と、ちゃんとコレを見たかったの。だから……、残念なの」
珠子は僕の横に座る。近過ぎたので、少し場所を譲る。
「いつもと様子が違うよ。珠子、なんかあったの?」
珠子はご近所さんで、幼馴染みだ。だから些細な変化も分かる。
「ううん、何でもないの」
なぜだか、僕は言いようのない距離を感じた。
横顔すら見せたくないのか、流れるような彼女のうなじが、僕の瞳に映る。
会話はそれっきり無くなり、結局、何も話してはくれなかった。
風を感じる丘の夜は、たった一点の光を除き、静まりかえっている。
その僅かな光でさえ、僕等を照らすことはなかった。