四面楚歌-悲運の妃-
「では、我々は表でお待ちしております。」
挨拶もそれなりにすませ、楚殿と共に部屋を後にし、屋敷前にて狄洙様を待つ。
しばらくすると、母上様に手をひかれる嫁入り衣裳をまとった狄洙様が出てきた。
涙を浮かべる母上は、名残惜しそうにそっと狄洙様の手を離す。
代わりに楚殿がお手を取り、輿へと誘導する。
嗣永様は、狄洙様に何もお声もかけられないが、寂しそうな瞳で見つめていた。
狄洙様が輿に乗られたのを確認すると、楚殿が櫂家の門前に深く頭をさげる。
それを合図に下げられていた皇旗が、空に向けてあげられた。
『出立ッ!』
私の声と共に行列は黄麟城へと、動き出した。
黄麟城までの間、行列に交わる者は誰1人と声を出してはならない決まりだ。
ただ、黄麟城までの道のりを目を配らせながら進む。
狄洙様は今どの様な気持ちで輿にお乗りなのだろうか?
私には自らの意志で軍妃となり、後宮に入った。
私には狄洙様の気持ちがどんなものなのか、想像出来ない。
狄洙様のお気持ちに関係なく、迎親の行列は黄麟城に向かい進んでいく。
皇族の花嫁を乗せた迎親の行列は、よりいっそう華々しく、都に住む民達の瞳を奪う程だった。