四面楚歌-悲運の妃-
仮面の醜い私が着飾る姿なんかを、見たいと言ってくださるなら…
断るわけがない。
私が頷くと、陛下は優しく微笑んだ。
「離れ難いが、私は朝政に行かねばならん…。
壁内侍に室まで送ってもらいなさい。」
陛下はそう言うと、私の腰に手をあてて促す様に歩き出す。
着なれない衣裳で重い裾が、それだけで軽く感じてしまう。
陛下のこの手が、妃として私に触れる日を
私は本当は待っていたのだろう。
聖人であるという事がいつもそれを抑え込み
素直にさせない。
普通の女人とは、こんなにも幸せなものなのだろうか?
いや…
陛下が妃として、私に触れるから
私が陛下をお慕いするからこそ
幸せと思えるのだ。
それでも…
私は忘れてはいけない。
聖人として
この幸せが壊れてしまう事になっても
陛下の為に、この宮歌国の為に
命をかけて守らねばならぬ事を…
「では壁内侍、冥紗を室へ送ってくれ。」
壁内侍にそう頼んだ陛下の手が腰から離れる。
離れるその手を名残惜しく目で追いかけると、その手は私の頬へと移動する。
「いってくる。」
悲しそうに微笑み言う陛下に、私も笑顔で返す。
『いってらっしゃいませ。』