四面楚歌-悲運の妃-
軍妃は平民の者が大半だ。
特にそう感じているだろう。
私も憧れがなかった訳じゃない。
天子様に愛され、綺麗な衣裳着て過ごす日々が、聖人の私には叶わぬ夢であった…。
けれど李燗達と違うのは、私は少なからず実際の後宮を知っていた。
だから、現実を知って落ち込む事も嘆く事もない。
そんな事を考えていると、走ってくる足音が聞こえてくる。
??
その足音の正体は、さっき出ていったばかりの威仔だった。
「あの…琴昭儀様。牡丹殿から杞王妃(キオウヒ)様がおみえになってます。」
杞王妃…
杞王とは、恢長公子様の事で、杞王妃という事は、恢長公子様の正妃の事だ。
か、櫂狄洙様!?
なぜ、狄洙様が私の所へ!?
驚く私に、威仔は少し遠慮がちに言葉を続ける。
「憧充容様がこられているので、一先ず琴昭儀様に聞いて参りますと、お伝えしたのですが、憧充容様がご一緒でも構わないと申されまして…。」
李燗が一緒でも構わないと?
狄洙様がそれでも構わないと申されるなら、私も構わないけれど…
李燗に答えを促す様に顔を伺う。
李燗は少し考えると口を開いた。
「…私もご一緒して良いのなら、杞王妃様にお会いしてみたいわ。」