四面楚歌-悲運の妃-


急に声をかけられハっとする。


呆然と刺繍を見てしまっていた私を、退屈だと思われてしまったのか。


『いえ、退屈ではありません。
刺繍をする所を初めて目にしたものですから、つい夢中になって見てしまいました。
護衛中の身でございますのに、申し訳ございません。』


初めて見たという言葉に余程驚かれたのか、目が見開かれる。


貴族出身の崔皇后様からしてみれば、女人のたしなみとして、刺繍をするのは当たり前なのだろう。


庶民の中には刺繍をしてそれを売り、生活をしている者もいる。


けれど貧しい村人は刺繍する術も、道具を買う金子さえなく、知らぬ者もいる。


崔皇后様は何かに気づき、悲しい顔をした。


私が小さな村の出身だという事を思い出したのだろう。



崔皇后様にこんな顔をさせてしまった自分の言葉に後悔が生まれる。



崔皇后様なれば、すぐに気づきこの様な顔をされると、考えれば分かった事だ。


退屈ではないと、一言返すだけで良かったではないか。



『私には刺繍の変わりに、武術がございました。
そのおかげで、こうして軍妃将軍になれ、崔皇后様をお守り出来るのです。
ですから、その様なお顔をなさらないでください。』


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