四面楚歌-悲運の妃-
室に入ると、天蓋で仕切られた空間の中の長椅子に、座ろうとする後ろ姿が見えた。
ゆっくりと椅子に座り、その人物は顔を見せた。
30歳を越えているとは思えない、若く美しいお顔。
呂貴妃の様に鋭さもない。
その風貌からは椀皇后を毒殺した事が信じられない程だ。
この方が、稚皇太后様。
「前会うたのはいつだったか?
久しいな、崔皇后。
懐妊したと聞いて、祝いにと参ったのじゃ。」
微笑みながら言うと、真っ白な腕を袖から覗かし、手を横に向ける。
手の先には、稚皇太后付きと思われる女官3人が、豪華な品を持って立っていた。
崔皇后様はそれを見ると、軽く会釈をして礼を述べる。
稚皇太后様は笑顔でそれを返すと、椅子から立ち上がり崔皇后様の前に歩みよる。
「これでそなたは皇后としての地位を確かな物に出来る。
御子がおらぬ皇后は、名だけの皇后じゃ。
妾が選んだ皇后…この目に狂いはなかった。」
細長い指先が、崔皇后様の顎に触れる。
崔皇后様を見つめるその瞳は、優しくもあり、鋭さを感じられた。