四面楚歌-悲運の妃-
見た目と同じ様に、か弱く発せられた声。
置物の左丞相だと言われてしまう理由が分かる気がした。
范丞相とは違い、気迫が感じられない。
野心を灯さぬ瞳。
范丞相とは真逆だ。
頭を下げ挨拶を返すと、柔らかい笑顔が返ってきた。
その笑顔にさらに、なぜ左丞相という地位におられるのかと疑問に思えてくる。
「冥紗に会わせたいと思っていたのだが、江洵子が言った通り、長らく宮中におらぬでな。
やっと会わせる事が出来た。
范夷扶が動なれば、江洵子は静。
この2人がいてこそ、政が成り立つのだ。」
陛下の言葉にハッとする。
范丞相が動…
江丞相が静…
この後宮に来た頃に陛下と范丞相と話した事を思い出す。
優しさと冷酷さの2つがなければ、良き政は行えない。
つまりその優しさが江丞相で、冷酷さが范丞相という事か…。
陛下は私の思っている事をを察して気づかせてくださった…?
陛下の顔を見ると、笑顔を返してくる。
「それに…江丞相は大事な役目をもっているのですよ。」
珍しく今の今まで言葉を発していなかった范丞相が、私と陛下の繋がる視線を遮る様に言葉を放った。