四面楚歌-悲運の妃-



聖人の村にいた当時の私は、ここまで詳しく知らなかった。


冥明様の事は禁句で、私には冥明という名の生姫などいなかった風だった。


それ故、燐冥様の話ばかりを聞かされていた。


冥明様に出会って、燐冥様が自らの代わりに生姫としての役目を果たしたという経緯を聞いた事で、真実を知ったが


聖人の村を出なければ、今でも真実を知らなかっただろう。


燐冥様は冥明様の事がなくとも、歴代では初代生姫と肩を並べる程だった。


その燐冥様を越える力を持つと期待されていた私は、[燐冥様以上の生姫になるのだよ] と何度となく言われた。


目の前にいる江丞相が、その燐冥様の血族…。



驚く私など気にせず、范丞相は言葉を続けた。


「生姫の生家である江家には聖人と宮廷との仲介役という、大きな役目があるのです。」



仲介役…?


そんな話は初めて聞いた。


否、知らなくて当たり前だ。


聖人の村は成人するまで、村の仕組みなどの詳しい話を教えない。


女なれば年に関係なく、童女から女人になった時

男なれば15の年になった時が成人という。



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