四面楚歌-悲運の妃-
范丞相は足を止め、戸惑う様に私と陛下の顔を交互に見た。
『この程度の傷で根を吐いていては、軍妃など務まりません。
まずは外の様子を確認した後、陛下と皇后様を宮まで無事にお送りさせてください。』
陛下は顔を歪め、傷を労る様に片手で私の腰を引いた。
陛下の胸に頬があたり、心の臓の音が伝わってきた。
早鐘をうつ鼓動。
「すまぬ…すまぬ冥紗。
私の為に…。」
陛下何を謝られます…
私は陛下の盾になれた事を光栄に思っているのです。
悲しいお顔をなさらないで…
視線を陛下に向けようとすると、皇后様のお姿が目にうつる。
あ…ッ
『へ、陛下…。
皇后様も居られるのです、お離しください。』
私がもがく程抱きしめる力が強くなる。
皇后様が見て居られる…。
今、お体を大事にせねばならぬ時なのに。
早く離れなければと頭ではわかっていれのに
陛下から離れる事が出来ない。
陛下は頭を抱えると、耳元に口を近づける。
「そなたは私の寵妃なのだ…。
皇后よりも、誰よりも寵愛する妃なのだ…。
その寵妃が私の盾となり傷を負ったのだ、心配して何が悪い?」