四面楚歌-悲運の妃-
陛下…
その言葉を嬉しくない訳ではない。
崔皇后様を悲しませてしまう事。
陛下の次に忠誠を誓う崔皇后様。
嫉妬や妬みを言葉にはなさらない。
けれど、私と陛下を見つめる崔皇后様のお顔は悲しく歪んでいる。
『陛下…お願いでございます。
お離しくださいませ。
私は大事ございませんから…』
陛下の胸をそっと掌で押すと、陛下は深く息を吐き、腕を緩めた。
腕が解かれ陛下の傍から離れると同時に、複数の足音がこちらに向かって来た。
カシャンカシャンと防具のすれる音をさせ、近衛兵が陛下の前に跪く。
「ご報告いたします。
刺客の姿は確認できず。」
姿が確認できない?
五行の力を纏わせた天矢が遮られたというのか!?
まさか…五行を使う刺客…
以前も五行を使う刺客だったのだ、十分ありえるだろう。
しかし、天矢を放ったのだ。
無傷ではあるまい。
近衛兵は言葉を続けた。
「血痕が残っておりました故、周囲に潜伏しておらぬかと、兵達に探せましたが、見つかりませんでした。
刺客は退散したと思われます。」