四面楚歌-悲運の妃-
血痕が残っていたとはいえ、追跡が出来ぬ程の距離まで退却する力がまだあったという事だ。
陛下は近衛兵に下がって良いと手を振った。
『刺客を射止めることが出来ず申し訳ありません、陛下。』
あの刺客はまた傷を癒し現れる。
私が確実に仕留めていれば…
「謝る事必要はない。
そなたは私達を護ったのだ。
…たとえ、刺客を葬ろうが次々と刺客は現れる。
生け捕りにしようが、貴妃に通じる確証は得られぬ。」
陛下…
皇帝暗殺は死罪…。
呂貴妃が刺客を雇っているとわかれば、皇帝暗殺の罪でいくらでも今までに呂貴妃を死罪に出来ただろう。
宮廷内に味方を作り、内側から皇帝を退位させようとする妃は、何人もいただろう。
けれど文官や武官を取り込んだとて、彼らは死を突きつければ口を割る。
刺客は口を割らない。
彼らは主を持たぬが、刺客としての誇りを持っている。
口を割らないのは、雇い主の為ではなく、刺客としての誇りなのだ。
故に死を突きつけられれば、死を選ぶ。
呂貴妃はそれを知っているのだ。