四面楚歌-悲運の妃-
私の肩の傷に視線をやり心配そうにする崔皇后様を、半ば無理矢理に床につかせたと同時に、御典医が皇后宮に着いた。
鄒に案内されて御典医が寝室に入ると、私と崔皇后様を交互に見て口を開いた。
「琴軍妃将軍様の傷をと聞いて参りましたが…」
寝ている皇后様を見て、どちらを見るために呼ばれたのかわからなくなったのだろう。
戸惑う御典医に先に崔皇后様を見てくださる様に言うと、崔皇后様は慌てて上半身を起こした。
「私は少し疲れただけです。
大事ありません。
琴軍妃将軍の傷の手当てを…」
御典医は再び戸惑う様に私と崔皇后様に視線を交互にやる。
私が首を横に振ると、御典医は崔皇后様に向き直った。
先程の刺客に襲われた事で、恐怖にかられ、精神的に疲れられただろう。
御子に影響していては大変だ。
元々お体が弱い方であるから、少しの事でも気をつけてさしあげなくてはいけない。
御子を生む事は命がけ。
私のこの傷など、致命傷ではない。
「お待たせ致しました、琴軍妃将軍様。
皇后様は大事ございませんので、ご安心して手当てを受けてください。」
御典医は手を洗いながら、笑顔で私に話かけた。