四面楚歌-悲運の妃-



崔皇后様の寝所で手当てをすると血で汚してしまう可能性がある。


護衛が差し支えない様に、寝所にすぐ行ける隣の室へと移動する事となった。



「まずはその矢を抜かねばなりませんな。
失礼致しますよ。」



御典医は食い込む矢を見てをしかめた。


皮膚を少し切らねば抜けない。


いくら軍妃と言えど、妃の皮膚を切る事に御典医も戸惑っていた。

あの時は抜いている暇もなかった。


抜いていたとしても、流れる血を邪魔に思っていただろう。



皮膚を切る準備をする為背を向ける御典医を確認し、折った箆の残った部分を手で掴み、円を描く様に回す。


くッ…


「ぐ、軍妃将軍様なにを!?」



振り返ってその光景を見た御典医は慌てて駆け寄る。


それを手で征し、掴んだ箆を力強く引く。


『ぐ…うあぁぁッ!』


痛みが増し、肩を血に染める。


「なんと…無茶な事を!!
そんな事をすれば、傷口が酷くなるではありませんか!」


御典医は急ぎそう布地を肩にあて、流れる血を抑えた。


急ぎ崔皇后様の護衛に戻らねばならないのだ。


私が痛みに苦しむのを気にしながら抜かれるより、自らの手で抜いてしまった方が早い。


そう思って抜いたものの、予想以上の痛みに椅子から滑り落ちる。


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