四面楚歌-悲運の妃-


今私が着ているものは刺繍も入っていない、浅紫の衣装だ。


差し出された衣装は、桔梗の刺繍が入った、紅藤色の衣装。


桔梗は陛下の花…。

陛下の花と言うのは、陛下をあらわす花という訳ではない。


陛下が皇太子になる前に天孫ノ宮の桔梗殿に住んでおられた事から、桔梗は陛下を思わせる花というだけだ。


以前から崔皇后様と姜賢妃様は良く、桔梗の刺繍を施した衣装を着ておられた。



この様な物を頂いていいものだろうか?


私が着るべき物ではない気がしてならない。



「此れは以前から貴女様にと、崔皇后様が作らせていた物なのです。
華美な物は陛下に頂くでしょうから、普段着られる物をと…。」



前から私に?


衣装を手に取り、刺繍をそっと指でなぞる。


紅藤色…紫色系の物を良く着ている私に合わせてくださったのだろうか?


良くみれば動き安く作られており、鄒が言った様に普段に着る為に作られている。



崔皇后様…。


衣装を握りしめ、眠る崔皇后様を見つめる。


「作らせているのはそれだけではないのですよ。」


え?


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