四面楚歌-悲運の妃-
私達がお気になさらずと言った所で、余計に胸を痛まれる方だ。
無事に御子がお産まれになるまではお心が安らぐ事がないだろう。
何も出来ない事程もどかしい事はない。
無事に御子がお産まれになるまで、しっかりお護りする事が私に出来る事。
それと…
『この品は有り難く頂きます。』
そう言って、手に持っていた衣装に視線を移す。
私の為にと…
崔皇后様の想いがつまった物だ。
桔梗の刺繍を指で撫でる。
「この黄奏帝後宮で桔梗の刺繍の入った物を着る意味を、知っておられますか?」
意味?
それは陛下が天孫ノ宮の桔梗殿におられたからで…
それ以外に何か意味が?
鄒は含みのある笑みを私に向けた。
「後宮で桔梗の刺繍を着ておられる方はどなた方ですか?」
どなた方とは…崔皇后様と姜賢妃様で、他には誰も…
…まさか…
急いで鄒の顔を見上げると、笑顔で頷き私に一歩近づいた。
手にある衣装に手を伸ばすと、桔梗の刺繍を指でなぞる。
「桔梗の刺繍は陛下の寵愛の証なのです。
特にそうと定められている訳ではないのですが、崔皇后様と姜賢妃様だけが着ているという事で、妃の間ではそう言われているそうなのです。」