四面楚歌-悲運の妃-
そんな疑問が頭の中を巡ったが、言葉にはしなかった。
さき程から私が何を言っても、鄒になだめられている。
「お気になさらず、皇后様の貴女様へのお優しさでございます。」
きっとそんな言葉が返ってくるだろう。
鄒に軽く頭を下げ、着替える為に室を移動する。
豪華な衣装ではないが、絹は上質なもので、肌触りは陛下に頂く衣装とかわりない。
着ると一層、胸元の桔梗の刺繍が栄える。
桔梗の刺繍…。
もう何度め指先で撫でた刺繍に、もう一度指を這わせた。
この桔梗の刺繍の衣装に、ふさわしくありたい…。
陛下の本当の心からの…ッ!
…何を考えてしまったのだ、私は。
陛下に心から私を求め、寵愛してほしいなどと…
私はまだ夢を見るのか?
ただ妃でありたいと…
これでは自らの責務を放棄する様な想いだ。
陛下に寵愛を貰う事が一番ではなく、お護りする事が最も私の中で優先されなければいけない。
陛下の妃としてはその次。
私はこの先、何度この葛藤をするのだろうか?
その度に自らの心を鞭でうち、本来の私に戻す。
この先何が起ころうとも、私は私でなくてはいけない。
そう…何が起ころうとも…