四面楚歌-悲運の妃-
私の前を歩く范丞相は、皇后宮から黄麟ノ宮に入り、慣れた足取りで私の室へと向かう。
後宮・黄麟ノ宮をなんの気もなく歩ける男の方は、陛下と宦官を除いてこの方だけだ。
左丞相である江丞相は、黄麟ノ宮に片足さえ入れない。
それ程までに特別とされる范丞相は陛下にとっても、この國にとっても、必要不可欠。
無言のまま私の室にたどり着くと、出迎えた威仔は范丞相を見て戸惑いながらも室に案内する。
「私と琴昭儀様のお2人だけでお話ししたいのですが…。」
お茶を運び終わって側に使えていた威仔を、范丞相は横目で見ると言った。
私は「さがる様に…」というように威仔に視線を向る。
威仔は軽く頭を下げると、すみやかに室を退出した。
それを確認した范丞相は再度私に向き合い、一息つくと口火をきった。
「私が何を企み頼むのか…と、いう顔をしていますね。」
笑みを浮かべながら言う言葉と裏腹に、私を鋭く見つめる瞳に、思わず息を飲む。
「貴女様には、私の考え…いえ、企みをすべて申し上げた方がお早いかと思いましてね。
貴女様は陛下の為なら、なんでもご承諾くださる。
そう見込んでのお話です。」
范丞相の考え…すべてを…?