四面楚歌-悲運の妃-
村に帰りたくない…
此処に居たい。
いつかは私が聖人だと分かってしまう時がくるまで、少しでも長く…。
「答えれませんかね?」
口を閉ざしたままの私に、范丞相は目を細める。
欺く事が心苦しい。
それでも重い口を開く。
『…この仮面は私の覚悟の様な物なのです。
私が軍妃になるのは、寵を得るためあらず。
陛下をお護りする事であると…。
それはおばあ様の意志でもありました。』
ゆっくりと話す私に、范丞相は視線をはずす事なく鋭く私を見つめる。
その視線に言葉が詰まる。
いつかこの問いをされるだろうとわかっていた。
あらかじめ用意した言葉はいくつもあったはずだった。
けれど何度頭の中を探しても、見つける事が出来ない。
欺く罪が天に叛く事であっても、私は此処に居たいと願っているのに
罪の鞭によって言葉を止められてしまう。
『どうか…これ以上はご勘弁ください。』
再び口を閉ざした私が、再度声に出せたのは、范丞相が不信感を抱かせるような言葉だった。
自らの隠された真実があるといっている様な…
こんな言葉をいいたかった訳じゃない。
范丞相に疑われれば、ここにいれなくなってしまうというのに…!