四面楚歌-悲運の妃-
弱々しい声が私の名を呼ぶ。
この声は良く知っている声だ。
「冥紗…すまない。」
ゆっくりとその声に振り向くと、晏惟と梛犀が立っていた。
私が…恐ろしいのではないのか…?
私が生姫であると隠していた事に、怒りはないのか?
何も言葉を発する事の出来ぬ私の手を取り、体を引き上げる。
「泣くには理由があるのでしょう?
先程の冥紗はまるで別人だった。
ねぇ、貴女の事をおしえて欲しい。
それでなければ、始まらないわ。」
晏惟…。
笑顔の二人に違う意味の涙が溢れる。
『…あ…りがとう…。』
そう口にすると、二人の腕に抱きしめられた。
その腕はまだどこか私を怯える様に震えていた。
けれど力強く私を抱きしめるその腕から、私を知って受け止めようとしてくれる心が伝わってくる。
暗かった空に朝日が射しだす。
晏惟や梛犀だけではなく、崙矣や悒雉にも私の事を話そう。
私を支えてくれる仲間に。
ゴーン
ゴーン
響きわたる朝の鐘の音。
仲間に抱きしめられながら、目の前に広がる地獄絵図。
その光景と共に聞く鐘の音は、私にとっての本当の戦いの
始まりの鐘の音に聞こえた―――――。