四面楚歌-悲運の妃-



何も言わず突然姿を消した私は、本当ならば皆に責められても致し方ない。


しかし皆は優しく私との再開を喜んでくれた。


それは皆が私だけに在る掟を知っての考慮だろう。



琳湶は皆の言いたい事を代弁しているのだ。


最後に会った時より変わっていないな…


『皆に話さず村を出た事、申し訳なく思っている。』


謝ったからといって許されるわけでない。



私だけが聖人としての宿命から逃れようとしたのだ。


けして逃れられぬ事だとわかっていても、逃れられずにはいられなかった弱い者。



「そなたは籠の鳥。
貴重な鳥な故、永く生かし愛でる…。
しかし鳥は羽ばたくものだ。
故に致し方ない事。」


許しの言葉をくれる琳湶に、自然と笑みがこぼれた。

はじめから責めようなどという気持ちがないのが、その一言で感じられる。


偉罨様といい琳湶といい、皆優し過ぎる。



「すまぬが、もう術がもたぬようじゃ。」


逞洟が琳湶の横から、顔を覗かせる。


もう少し話していたい気持ちもあるが、聖人とはいえ万能ではない。


詳しくはわからぬが、複雑な術で繋げている故に、体力に限界があるのだろう。


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