四面楚歌-悲運の妃-



村を自ら離れた身といえど、皆の顔を見るのも話すのも、やはり心が安らぐ。


それは私の本当の居場所はこの後宮ではなく、聖人らといるあの窮屈な村なのだと思わされる。


共にあるべき仲間。


天子様の為に生まれ


天子様の為に逝く


同じ宿命の仲間。


私が此処で生きても


聖人として生きなくとも


それは変わらない。



「ここの水を室に持って帰るとよいぞ。
さすればいつでもそなたと話せる。
難儀な術故、頻繁には出来ぬがの。」


今は水を入れる物がない。

後で威仔に頼んで室に持ってきてもらうしかなさそうだが、また話せる事に嬉しさが込み上げる。



「そなたが抗い生きる姿を、これからも見させてもらうぞ。」


しばらく顔を見せていなかった祁曹が、目を細め口端をあげて言う。


しっかりと頷き返すと水面は揺れ、聖人達の姿を映さなくなった。


何も映さぬ水面をからしばらく目が離せず、変わりに映された歪む自らの姿を眺る。


名残惜しい気持ちと、何故だかわからぬ不安。


居所のつかめない不安を断ち切る様に、舞妃ノ宮を後にした。



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