四面楚歌-悲運の妃-
―――――――…
「お待ちしておりました。
琴昭儀様の家令に命じられました、劉抒菲(リュウジョヒ)でございます。」
室に帰るやいなや、私の前に現れたのは威仔ではなく見知らぬ宦官。
范丞相と同じくらいの年齢だろうか。
しかし宦官であるが故に髭はない。そして髪は范丞相より多くの白髪がある。
宦官には若白髪が多い。
何しろ我が儘な妃達相手をしているのだ
見た目だけでは判断が出来ない。
しかし、無能な宦官でない事はわかる。
その証拠に、威仔が後で肩を小さくして立っている。
『数刻前に家令の話をされたばかり…、お早くはありませぬか?』
「元々昭儀様付きと決まっておりました故。
昭儀様がいらぬと申されておりましたので、本来の役目を今までできませなんだ。」
私の言葉に躊躇なく答え笑顔で答えているが、目は笑っていない。
後宮で多くの家令…宦官を見ているが、この様な者は多くはない。
崔皇后様の家令も同じ様な感じであった。
皇后付きとなれば、侍従長である壁内侍程の人材になる。
壁内侍の場合は普段は厳格そうに見えぬが、腹の底が知れぬ最も優れた宦官だが…。
九嬪・昭儀であり軍妃将軍である私にも、同等の者が付くのはそれ相応という事か…。