四面楚歌-悲運の妃-
賜った自室に帰ると、女官が急いで出迎えてくれた。
なんだか慣れない。
高級な衣裳も
この広い部屋も
私は贅沢などしなくてもいい。
この後宮の守護の為にだけにいるのだ。
私付きの女官になった威仔(イシ)が急いでお茶を持ってくる。
『そんなに気を使わずともよいのですよ。
私には勿体ない事だ。
そなたもそこの椅子にかけてゆっくりされるがよい。』
そう言うと、気まずそうにお茶を机に置き、椅子に座った。
「あ、あの、琴昭儀様。
私何か至らない事が?」
少し怯えた様に威仔が言った。
それともやはり、私のこの仮面か…
『そう恐れずともよい。
ただ、この様に扱われる事に慣れぬだけだなのです。』
私がそう言うと、ほっとした顔をした。
私が微笑むと、威仔も微笑んだ。
「軍妃将軍様程強い方なれば、怖い方だと思ってました。
私の方こそすみません。
けれどお優し方で嬉しいです。」
威仔の言葉に、笑みがこぼれた。
確かに、怖い印象だ。
私も逆なれば、同じ事を思うだろう。
『仲良く致しましょう。』
「はいっ。」
こうして黄麟ノ宮での始まりの夜は過ぎて行った。