四面楚歌-悲運の妃-
では陛下もそれを知っておいでになって…
なぜ…あの優しい稜稟公子様ではなかったのですか?
私は何の言葉にもならなかった。
「あなたは勘違いをしておいでだ。
疑ってはいたのは事実。
けれど、陛下は何も知らなかったのだ。
私と稚皇太后の謀(ハカリゴト)だ。」
え?
陛下は何も知らなかった?
でも、でも…今その事実を知っていても平然として座っておられる。
「稚皇太后は己の権力と欲望の為。
しかし私は違う。
この宮歌国の事を思えばこそ、手助けをしたのです。」
どういう事?
ますます話がわからない。
今のままでは私がここに居る意味がなくなってしまう…。
私が命を捨ててまで守りたいと思ったのは、あの時の稜稟公子がいたからだ。
私が顔を歪ませると、范丞相は再び口を開いた。
「吏祇公子は皇太子の権力を盾にして、残虐な事を繰り返していたのですよ。
黄宋帝にばれぬ様に、女人を寝所に呼び、犯したあげく、絞め殺したり、首を跳ねたり。
…そんな吏祇公子が皇帝になればよかったとお思いですか?」
な…なんと酷い事を。
そんな方が皇帝になられたらと考えたら身震いがした。