四面楚歌-悲運の妃-
取りたいと初めは思っていた。
邪魔でしかたないと…
けれど、聖人という事がバレてはならないし
寵を得る為にいる訳ではないのだから、取る必要は今はない。
陛下に危険が迫り、傷ついた時のみ…そんな時などあって欲しくない。
『今はこの仮面も私の一部なのです。取ろうとは思いません。それに、簡単取れる物でもないのです。』
私の言葉に陛下は首を傾げた。
この仮面は私か冥明様にしか取る事が出来ない。
他の者には取れないのだ。
私は陛下にそっと近づくと言った。
『試しにお取りになってみてください。』
顔を陛下の方にさらに近づけると、細くて長い指が私の顔に触れた。
急に心の臓の動きが早くなる。
陛下が指を動かすたび、その鼓動は早くなる。
やがて私から手を離す
「取れない…不思議だ。」
そう言うと、少し考えこむ様な仕草をした。
もう触れられていないのに、まだ鼓動はおさまらない。
さき程の胸の締め付けは…
陛下を愛しく思ってしまっているから…
抱いてはいけない感情。
わかっているはずなのに…
鼓動はおさまってくれそうにもない。