四面楚歌-悲運の妃-
しっかりと私を見つめる陛下の顔が、優しくほころぶ。
陛下に信頼をいただく事はこの上ない幸せ。
周りを敵に囲まれ、誰が味方かもわからないこの宮中で、陛下が安心出来る場所を…時をつくってさしあげたい。
お会いするたび、私は陛下に惹かれてゆき
陛下の為に何かをして差し上げたいと思う。
冥明様…約束はお守りいたします。
時がくるまで仮面は外しません。
ただ、陛下を想う事だけをお許しください。
聖人とはいえ、悲しい事に私も女…
嫉妬や妬みなどはしないと誓います。
寵が欲しいとも思いません。
陛下が望む以上の事は望みません。
ただ陛下を想う事だけ…
それだけなのです。
「今宵は疲れたであろ。引き留めてすまない。この後はもう大事ないだろう、宦官達が続けて警護をする。そなたはゆっくり休むといい。」
そう言いながら、私の手を取り立ち上がる。
入り口に立つ壁内侍の元に行くと、送り届ける様に言う。
「また私とこうして話をしてくれるか?」
陛下…
『陛下が私を必要としてくださるのなら。』
そう笑顔で返すと、名残惜しそうにゆっくりと触れた手が離される。
陛下に深く頭をさげ、壁内侍の後をついて部屋へと向かう。
あの惨劇があったとは思えぬ、優しい時だった…