四面楚歌-悲運の妃-
「皆さん真剣ですね。」
木刀の交わる音と共に、低い声が聞こえた。
動きを止め、声の方を見ると范丞相が立っていた。
え?
なぜ舞妃ノ宮に范丞相が?
驚く私達をよそに、范丞相は私の元に歩いてくる。
「琴昭儀様がこちらにおいでと聞きましてね。少しお時間いただけますか?」
私に用?
范丞相に言われ、広場を離れ舞妃ノ宮の一室に入る。
外では修行を再開した悒雉達の木刀の音が響く中、私と范丞相は無言で向き合い座る。
始めに口を開いたのは范丞相だった。
「昨夜は麒麟殿の警護、お見事でございました。」
その言葉に頭を下げると、范丞相はにこっと笑う。
「明日…聖人の大神・火聖君(カショウクン)様が、即位されたばかりの陛下に挨拶に参られる。」
え…火聖君…!?
その名前に顔が強張る。
聖人の一神であり、8人の聖人の長・大神。
火聖君とは聖人名で、本当の名は偉罨(イアン)。
それ故、聖人の村では私と同様に慈しまれてきた。
偉罨様とは聖人の村で、幼い頃より共に育ち、修行をしてきた仲でもあり、私を妹の様に可愛がってくださった方だ。
その偉罨様が…麒麟城にいらっしゃる…