四面楚歌-悲運の妃-
私頬に伝った涙を、偉罨様がそっと指で拭う。
「さぁ、あまり長いと陛下や范丞相が怪しむ。また黄麟城に参った時に話そう。」
そう言って、椅子に座っていた私を立ち上がらせ、手のひらに仮面をそっと置く。
冥明様の…お婆様の約束はお守りします。
私は涙を拭うと、再び仮面をつけた。
「最後にもう一つ。陛下の前で、一生仮面を外すつもりはないのか?」
扉の前で止まり、背を向けて私に問う。
この仮面を取る時…
あってはならない。
『陛下のお血が流れる様な事があれば迷いなく…。それが冥明様との約束です。』
小さな声で言った。
寵愛を頂く為にここにいるのではなく、守る為にここにいる。
外す時が来る時は、陛下の血を見る事になる。
あってはならないと分かっている…
けれど、なぜだか切ない。
偉罨様はゆっくりと振り向く。
何も言わず、しばらく私の顔を見つめる。
偉罨様?
「…そうか。仮面を取る日はそう…遠くないかもしれん。」
どういう事?