彼がメガネを外したら…。〜恋のはじまり〜



業者の人間によって運び込まれたのは、果実用のコンテナ数十個に入れられた膨大な量の古文書たち。一見〝ゴミ〟かと見まごうほどのそれは、なんでも県境にある旧家の蔵の整理を頼まれた岩城が、見つけてきた物らしい。

完全空調されていて、ある意味快適な収蔵庫の中なのに、一気に埃臭くなった。


「君は今、何の文書の整理してるんだ?」

「……今は、入村家文書、です」

「ああ、どこにでもある近世文書の類だな。それじゃ、そっちは途中でいいから、こっちの古庄家文書の方を先に整理して」


岩城のなんだか高飛車な態度が、絵里花の癪に障った。それに、整理すると言っても、こんなに大量の、しかも汚い古文書の、どこから手を付けていいのかも分からない。

すると岩城が、それらを大まかに分け始める。その中から一つのコンテナを取り出して、


「とりあえず、この文書から」


ドン!と絵里花の目の前に置いた。怪訝そうな目で絵里花が見上げても、ビン底メガネの岩城はそれに気がつきもしない。

絵里花は、コンテナから古文書の一つをつまみ上げた。岩城は古文書の仕分けに忙しい。
幸か不幸か、絵里花はこの時から、この収蔵庫で物思いに耽ることはできなくなった……。


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