彼がメガネを外したら…。〜恋のはじまり〜
曖昧で優しい言葉
そもそも、どれだけ絵里花が一人で物思いに耽っても、〝あの出来事〟の決着がつくわけではない。
あの出来事から一週間が経とうかというある日、絵里花は思い立って崇に会いに行くことにした。
一時間ほど休みをもらって、いつもより早く、埃まみれの古文書と理解不能生命体(岩城)から解放される。
絵里花は崇の勤める会社の前で、彼を待っていることにした。依然として崇からは何の音沙汰もなく、知らせると逆に逃げられてしまうかもしれないので、不意を打つことにした。
崇の会社は〝働き方改革〟を率先して行っている企業らしく、ほぼ定時に会社から出てくることは知っていた。
この〝待ち伏せ〟が、卑怯だなんて言わせない。もし崇が〝浮気〟をしているのならば、崇の方がよっぽど卑怯だ。
……それに、まだ絵里花への愛情がまだ残っているのならば、卑怯だと感じることではなく、却って喜んでくれるはずだ。
物陰に隠れて、ひっそりと待っていようと、絵里花の頭の中では想定していたのに、絵里花の容姿がそれを許さなかった。
本当にまるで、ファッション雑誌から抜け出してきたようなその圧倒的な存在感。周りから隔絶されたオーラを放つ絵里花は隠れようがなく、誰の目にも止まってしまう。