For*You
「あーあ。
ちゃんと姫さんのご機嫌とりしてやらなきゃな?
召し使いくんっ」
「陽斗ぉー!
じゃなくて!!
颯姫待ってーっ!!」
一言余計な陽斗を追いかけ回しそうになって。
しかし今すべきことはそれではないと慌てて颯姫を追いかける。
「颯姫ぃ……ごめんね?」
「……」
「本当にずるいの意味が違うんだってー……」
「……」
「……うぅ……」
「はは。
ごめんって?
ちょっぴり意地悪しちゃっただけ」
「颯姫ぃー……!」
「でもちょっと寂しかったんだからねー」
少し近くなったお互いの距離。
手を少し伸ばせばその綺麗な手を拐っていけるほどに。
「ごめん!
誤解させちゃった……よね」
「もういいって」
小さい子をあやすような優しい口調で颯姫は言う。
颯姫はいつも……
オレをヒヤヒヤさせたりドキドキさせたりするのが上手だ。
隠し事も嘘だって颯姫にはすぐ見抜かれる。
「宏?
どうかした?」
「……へ?
あ、ううん……!」
「嘘だー。
宏、嘘つく時まばたきしながら目逸らすもん」
「……そそそんなことないもん!」
「……いやぁ、分かりやすすぎるでしょ?」
例えば、今みたいに。
颯姫のことはどうしたら喜んでくれるかな、もしかしたらヤキモチも妬いてくれないかな。
そんなことは全然分からないのに。
「な、何でもないから本当にっ」
颯姫のことを考えていた、なんて恥ずかしくて言えない。