【完】『空を翔べないカナリアは』

消灯の時限を過ぎても貴慶は起きていた。

いや。

眠れなかった、というほうが正しいかも知れない。

一人で通路へ出ると、空いたスペースにもたれながら、缶コーヒーを片手に、後ろへ飛んで行く夜景を眺めていた。

すでに岐阜は過ぎ、見えて読めた看板は彦根である。

「彦根、か」

トンネルを抜けると、京都である。

京都では機関車の交換があって、しばらくホームに停まっていた。

終わると、再び西へ動き始めた。

このあとは知っている。

新大阪、大阪、三ノ宮、姫路、岡山…倉敷で伯備線へ切り替わり、米子から松江へ入る。

小学校の宿泊学習以来であった。



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