【完】『空を翔べないカナリアは』
少し歩いて、今出川浄福寺の角を南へ下がり、ちょっと奥まったところに、
「あれがうちの親が持ってる会社」
と指をさした先には、真新しい不釣り合いな三階建ての黒壁のビルがあった。
「昔は白かったんやけどな」
そこからさらに路地を歩くと、
「で、そこのあたりにうちが住んでたアパートがあって」
貴慶が指した場所は、駐車場になっていた。
美優は固まっている。
「な、現実って残酷やろ」
貴慶は言った。
「だから、うちはもう帰る場所ないねん」
行こうと貴慶が促しても、美優は根が生えたように立ち止まったまま、動こうとはしなかった。