【完】『空を翔べないカナリアは』
VOL.4
〔1〕
この出来事を境に。
美優には貴慶への疑問が生じた。
(どうして)
遠く離れた場所で一人で生きて行くことになったのかを、である。
目の前の貴慶は、苛烈な半生を送ってきたであろうに違いないはずなのに、
(どうしてだろう)
と美優は思うのである。
グレてドロップアウトしてもおかしくないのに、なぜあんなに美優に優しく接することができるのか、と。