【完】『空を翔べないカナリアは』
卒業式の朝。
早く起きた美優は、下着にキャミソール姿で貴慶の前に立つと、すでにレンタルで届いていた紫の矢絣の振袖と、海老茶の袴を着付けてもらい、
「これでブーツ履いたら完成やね」
と言った。
卒業式は全日制と一緒なので、時間も早い。
「こっちも」
別の部屋で待機していたリサの着付けも、結局は貴慶が全部済ませた。
「貴慶の服は?」
「えっ?」
「まさか出ない訳ではないよね?」
「…用意してあるよ」
といたずらっぽく笑った貴慶が着たのは、グレーのヘリンボーンのアンサンブルスーツにフランネルのブレザー、懐中時計を提げ、帽子もキャスケットというブリティッシュスタイルである。
「…やるじゃん、貴慶」
美優が今まで見たことのないほど、このときの貴慶はさまになっていたらしい。