【完】『空を翔べないカナリアは』
さて。
一方の貴慶はというと、黄色のバイクでいつものように依頼された商品を届け終えると、浮島の埠頭までバイクを転がしていた。
埠頭に停めると、向こう側に羽田の飛行場が見える。
離陸の轟音がときおり響く。
缶コーヒーを手に、暮れてゆく空を眺めた。
夕焼けで白鳩の数羽の群れが桃色に染まり、エンジン音で導かれるように、扇島の工場の、煙突と蒸留塔の林の中へと帰ってゆく。
しばらくたたずんでいた。
が。
やがて再びバイクに跨がると、来た道を引き返して、まずは産業道路とぶつかる大師河原を目指しスロットルを開いた。