【完】『空を翔べないカナリアは』
リサに美咲を預け、美優が案内されたのは警察署の、何やら薄暗い一室である。
ベッドには、白いシーツに覆われた人体らしきものがある。
電灯が点いた。
傍らにあるヘルメットに、見覚えがある。
顔の布を外した。
「…白川貴慶さんで、間違いありませんか?」
見間違うはずもない。
蝋色に変わってはいたが、彫りの深い貴慶の顔である。
「単独の転倒事故だったようで、救命隊が到着したときには、すでに即死だったようです」
美優は何も考えられなかった。
が。
ここでは絶対に泣かない、と肚を決めていたのか、美優は震えながら泣かなかった。