【完】『空を翔べないカナリアは』
だが。
そのあとはしばらく、実は何の進展もなかった。
美優と貴慶に直接的な接点がなかったからに過ぎないが、しかし接触はいきなりやってきた。
いきなりの雨に降られ、ずぶ濡れになった美優が寿司屋の軒先で雨宿りをしていると、大将に頼まれ半切り桶を回収し終わって、戻ってきた貴慶と出くわしたからである。
「…傘、ないんか?」
無言で美優はうなずいた。
内心で美優は、
「なんでこんな素っぴんみたいになってるときに」
と恥ずかしくて仕方なかったらしいが、
「でもまた貴慶に会えてよかった」
とも思ったようである。