天神学園の奇妙な案件
「驚いたな」

龍一郎の立禅を見ながら、拓斗は言う。

「突然じいちゃんに稽古つけてほしいって言うから、聞いてみたら、龍一郎が聴勁覚えたいなんて言うなんて」

確かに聴勁は、肌から伝わる微細な振動で相手の動きを先読みする効果的な技だが、反面見栄えのしない地味な技術である。

龍一郎の性格上、こういった技には興味を示さないと思っていたのだが。

「…絶対勝ちてぇ相手がいんだよ」

立禅を解き、汗だくになった顔を拭う龍一郎。

「ティーダ君かい?」

「勿論ティーダにも負けたくねぇけどな…ま、色々だよ」

「そうか…色々か」

拓斗は深くは追及しない。

きっと、彼なりに何かを背負っているのだろう。

何かに挑み、何かに立ち向かい、何かと戦って、何かを守ろうとしている。

それが己の矜持だろうと、仲間だろうと、恋人だろうと、もっと大きなものだろうと、拓斗には関係ない。

ただ、護る為に戦える子に成長してくれた。

龍一郎がそういう男になってくれた事が、拓斗は嬉しい。

ならば自分は、惜しみなく持てる技術を伝えよう。

この親友に瓜二つの孫の為に。

「さ、龍一郎。立禅をもう一度だ」

「おぅっ」

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